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とりあえずかけそば一丁

アニメとか映画とか気になったものについて

マンガの実写化はクソとかほざく野蛮人の目に映画『バクマン。』を流し込みたい

本日2度目の更新となります.本日目黒シネマにて映画『バクマン。』を観てきたので忘れないうちに感想を書こうと思います.

 

 

東京はなんといっても名画座が多いですね.

miwaku-meigaza.com

名画座の魅力はなんといっても値段の安さです.シネコンで最新作を観ようとすると大人1800円,学生でも1500円はとられるので貧乏学生としてはなかなか敷居が高いです.ところが名画座の場合,最新作は上映されないものの,独自のプログラムで組まれた旧作や准新作が2本セットで1200円で見れてしまう,半額以下というなんと良心価格!しかも完全入れ替え制ではないので面白かったら2回,3回と居座って見続けることができてしまいます.

 

ということで前々から東京に帰省したら名画座へ行こうと心に決めていたのですが,本日は目黒駅から徒歩5分の目黒シネマに行ってまいりました.

www.okura-movie.co.jp

目黒シネマでは週替りで2本の作品を上映しているのですが,先週今週と上映されていた作品がこちら,

bakuman-movie.com

www.amazon.co.jp

でした.同時上映されている『トキワ荘の青春』は本作『バクマン。』の監督である大根仁さんが「セットで観たい作品」として自らチョイスされたということで,『トキワ荘の青春』を意識したセリフや美術があったようです(自分はバクマン。トキワ荘の順で観たのではっきりとはわかりませんでした)

 

更にバクマン。の公開に合わせて待合室が完全に集英社仕様になっていました!

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漫画家さんが実際に使用されているペンや大根監督へのメッセージノートなんかもアリ

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気合入ってる!!!

そんなこんなで見る前から結構テンション高かったのですが,実際に観てみたら作品自体も非常に面白かったです.

 

まずストーリー.漫画家の叔父さんを持ち絵が抜群に上手いサイコー(佐藤健)と絵は天才的に下手だけど文才があるシュージン(神木隆之介)という2人の高校生がタッグを組み,同じく天才高校生漫画家であるエイジ(染谷将太)を「友情・努力・勝利」によって打ち破る,という極めて王道の物語です.原作未読につき比較はできないのですが,聞きかじったところでは登場人物の数やエイジの扱いが異なるようです.おそらく2時間という尺と,実写化で無理のない展開,というのを考えた上での変更だと思うのですが,これが(おそらく原作をそのままダイジェスト化するよりも)功を奏しており結果として2時間のドラマの組み立てが非常によく出来ていたと思います.

 

話のテンポが良く緩急の付け方も見事だと思います.2時間以上の映画は中盤で中だるみしてしまうことが多いのですが,本作ではそれを解決するために「手塚賞への応募」,「連載決定まで」そして「連載開始後からエイジに勝つまで」と山を3つ用意し,それぞれを繋ぐためにヒロインとのやりとり,叔父さん(宮藤官九郎)の思い出シーン,ライバルであり仲間でもある他の漫画家たち,そしてマンガ編集者の視点を持ち込むことで話の繋がりをスムースにし「同じ山場構造の繰り返し」にならないよう工夫されていると感じました.

 

また,王道ストーリーを支える人物の作り込み,人物を演じる役者陣の演技も素晴らしかったです.

まず主人公の2人組,神木隆之介は『桐島部活やめるってよ』に続き「オタク系高校生」の役ですが引き続きドハマリしてました.彼がマンガの情熱を語るシーンやネームを考えるシーンはオタクっぽさがよくでていて非常に良かったです.実際相当のマンガ好きらしいとかで,マンガのネタを考えるシーンはアドリブでお芝居していたみたいです.また,神木君は『サマーウォーズ』で既にその才覚を表していたのですが声質が滑らかで綺麗なんですよね.だから彼がナレーションするシーンや早口でまくし立てるシーン,全てが聴いていて心地よかったです.

佐藤健は表情がホントいいですね.ヒロインと両想いと分かったときの変顔から,準入選で明らかに満足していない顔,徹夜で死にそうなときの雰囲気とか彼の顔によってサイコーのキャラがかなり深められたのではと思います.特に,佐藤健は「目」が素晴らしいですね.編集長とエイジを睨みつけるときの「目」は怒りや闘志,熱意といったものがないまぜになった素晴らしい意志のある眼差しでした.

一方彼らに負けず劣らずキャラ立ちしているエイジを演じた染谷将太は複雑というか玄妙というか,「コイツ何考えているのかわかんない感」を表現するのが非常に上手ですよね.佐藤健の「目」が一本筋が通った中にある複雑さだとすると,染谷将太の「目」は一言で何か言い表すのができない融け合った複雑さなんですよね.染谷将太の演技を観るのは『寄生獣』に続き2作目なのですが,『寄生獣』の主人公も元々もっていた精神が寄生獣との共生によって変質していく様子を上手く演じられてましたし,非常に素晴らしい役者さんだと思います.

叔父さん役の宮藤官九郎もいいですね.「叔父さんはなんでマンガ描いてるの?」に対する「うんこ」の雰囲気とかマンガを描いてるときの顔とか,マンガ家としての説得力を感じました.

このように素晴らしい役者陣ですが,特に個人的に好きだったのが主人公たちの担当編集である服部さん役の山田孝之です.実はこの服部さん,本作においては主人公2人に次いで最も重要なキャラクターなんですよね.初登場では徹夜作業明けで髪ボサボサ,「高校生の持ち込みかよ」と機嫌悪そうで第一印象最悪,主人公たちと顔を合わせても舐めた雰囲気なんですが,しかし実際に原稿を「拝見して」的確に評価を下すところはまさに「編集者」然としており高校生に対する「大人」である.そんな彼が主人公たちを陰に陽に支え連載1位まで導いていく姿はマンガにおける裏の作者である編集者をこの映画が大切に描こうとしているのだと感じさせてくれます.

山田孝之さんは本作では髪が長くてメガネも掛けているのであまり表情は明瞭に見えないのですが,その分手の動きや発声の仕方で上手に表現されていたと思います.

 

ストーリーとそれを支えるキャラ,役者陣の演技について書いてきましたが,本作の最大の魅力は「マンガすげー」と思わせる美術と演出です.

まずOPのマンガを描くペンの音が素晴らしいですね.そこから集英社の前に立つシーンに移りジャンプの歴史をナレーションで振り返るのですが,そこで歴代ジャンプ作品のコマやページが浮き上がり,移り変わりしていくシーンは「すごい」としか言えないです.少しでもジャンプに触れてきた人なら否が応でもテンションが上がらざるを得ない演出ですね.

他にも監督の「マンガを描くすごい演出」は随所で見られます.シュージンがネームをひらめいたときのシーンではネームがメガネに写っていたり,サイコーがマンガを描くシーンではペンの心地よい音に合わせてコマがシーケンシャルに移動していったりと「リズミカル」に表現されています.一方でエイジ君のマンガを描く雰囲気は暗い部屋で書道家のようにダイナミックにペンが振るわれており,実際のマンガの線も「ジャンプマンガだ!」と叫びたくなる力強さを湛えていると.

本作で登場するマンガそのものもすごいクオリティです.殆どは漫画家の卵さんが描かれているらしいですが,物語上で重要なものについては小畑先生が実際に描かれているらしく,その「画の説得力」は半端ないですね.特に主人公2人の画がどんどんレベルアップしていく様はマンガ素人が見ても一目瞭然で「マンガやべー」と思わずにはいられません.

マンガを描くシーンとは逆に,物語中盤での「シュージン・サイコーVSエイジ」のバトルシーンでは「役者の動きがマンガ的に切り取られる」という演出がされています.このシーン,これまでとはうって変わっていきなりデジタルな雰囲気に場面転換するのでかつて映画『UDON』におけるキャプテンUDONシーンを見てしまった僕としては「これやべーやつかも」と一抹の不安がよぎったのですが,そんな不安を吹き飛ばす「マンガかっっちょいい」シーンになっています.神木隆之介佐藤健は『るろうに剣心』でも共演しているのでこのアクションも息ぴったりですね.

 

しかし本編中でこんだけマンガを使ったかっこいい演出が頻出するのに,一番マンガ好きが高まる演出は最後のエンドロールに隠されていたりします.あれ,ジャンプ好きなら泣いて喜ぶ演出ではないでしょうか?

 

背景美術やセットについては,主人公2人の仕事部屋やジャンプ編集部の作りが「マンガ家の部屋」って感じが出ていました.編集部の部屋は実際のジャンプ編集者の方が驚かれるくらい緻密に作り込んであるらしく,その辺りの美術も物語の説得力を増すのに一役買っていたのだと思います.

 

このように,本作『バクマン。』は2時間という尺でどう見せるかを考え尽くした王道のストーリー,それを支える役者陣の演技と美術,そしてマンガ好きなら否が応でも高まる「マンガかっこいい」演出と,観客を楽しませる作り込みが素晴らしいですね.

だからこそ見終わった後には「日本のマンガすげー」と思わずにはいられなくなってしまう,そんなマンガ愛溢れる作品に仕上がっています.

 

少しでもマンガに触れてきた人,何か目標があってそれに打ち込んでいる人,目標を見失った人,そういう人が見たら元気が出る作品だと思います.

マンガの実写化はクソとか毛嫌いしないで,是非鑑賞して欲しい作品です.